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東京地方裁判所 昭和31年(行)109号 判決 1960年3月15日

原告 東光商事株式会社

被告 関東信越国税局長

訴訟代理人 吉野茂 外二名

主文

原告の請求はいづれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、請求の趣旨

被告が原告に対してなした別表記載の各審査決定は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二、請求原因

一、原告は金融業、映画演芸の経営等を目的とし、昭和八年三月一三日設立された株式会社である。

原告は、昭和二六年一〇月一日から同三〇年九月三〇日に至るまでの各事業年度の法人税につき、夫々確定申告をなしたところ、新潟税務署長は、関東信越局の官吏によつて調査した結果に基いて別表記載の通り各更正決定をなし、原告はこれに不服であつたから、いづれも同表記載の通り被告に対し審査の請求をしたところ、被告は同表記載の通り各審査決定をなした。

二、しかしながら、原告会社の前記各期の所得金額は、別表中「原告主張の所得額」欄に記載した通りであつて、被告が原告主張の所得額を超えて原告の所得額を認定したのは、所得計算上損金とすべき株主優待金、奨励金、謝礼金(同表中「株主優待金等」の欄に記載した額。以下単に株主優待金等という。)の支払いを、原告会社の利益処分として取扱い、益金として計上した結果に基くものである。前記各期における原告主張の所得額を超えて原告の所得額を認定した前記各審査決定、或は更正決定を認容した被告の各審査決定は、いづれも違法であるからこれが取消しを求める。

三、前記株主優待金等が損金である理由は左の通りである。

(一)  原告会社の営業は、所謂株主相互金融方法を執り、一般大衆から資金を吸収する方法として、

(1) 先づ取引の前提として、原告会社の株式を買受け、株主になる者を求めるため、原告会社は必要に応じて新株式を発行する新株式は、或る特定人をして一括引受けさせておき、次いで一般大衆から株式買受希望者を募集し、原告会社がその買受方を斡旋する。

(2) 株式買受代金の支払いは、一時払いの外、日掛、月掛による分割支払いを認め、分割支払いというのは、株式買受を応諾した者に対して原告会社がその買受代金を貸付け、この貸付金を分割弁済するという形となる。従つて、株式買受人が株主となる時期は、分割払いと関係なく、右貸付金により株式買受代金が払込まれた時であり、通常分割払いの第一回目の支払いがなされた時である。

(3) 株主が右一時払いをなしたとき、或は右株式買受代金として原告会社が貸付けた金額を完済したときには、原告会社から株主に対して持株の額面金額の三倍迄の金額を融資する。この場合には後記(4)(5)の利子該当額の支払いをしない。

(4) 株主が右融資を希望しないときは、原告会社は株主の持株を他人に譲渡することを斡旋するが、譲渡人が決まるまでは原告会社が一時これが譲渡代金を立替支払いをなし、株式を回収する。この際原告会社は右株式譲渡代金(株主が原告会社に対し株式取得の際支払つた金額と等しい。)に予め約定された一定の利率によつて算出した金額を加算して支払う。

(5) 右(3)の融資を受けず、又、(4)の株式の譲渡をしない株主に対しては、原告会社は引続き六ケ月以上株主たることを持続する毎に予め約定された一定利率にて算出した金額を支払う。

(6) 前記株式買受代金を一時に支払つた者に対しては、予め六ケ月、或は一年の株式持続期間を約定し、その期間経過後前記(4)の株式譲渡の斡旋を行う。

という方法により行われ、右(4)、(5)に記載された一定の利率により算出して株主に対して支払う金額を株主優待金、奨励金或は謝礼金などと呼んでいる。

(二)  従つて、右株主優待金等は、原告会社が融資を受けない株主に対して融資を受け得る権利を行使しないことの代償として支払うものであるから、全株主に平等に支払われるものでなく、原告会社の各事業年度の決算を待つことなく、各期の損益に関係なく当初に原告会社と各株主間に約定された一定率に従つて確定的継続的に支払われるものである。

このような性質を有する本件株主優待金等の支払いは、株式会社における株主の利益配当とは全く異つたものであり、これを原告会社の株主の側からみるならば、株式買受代金を元金とする利息に該当するものというべく、原告会社とすると、資金を獲得するための必要経費というべきものである。

(三)  又、本件株主優待金等とは比較にならない程高価な利益を株主に対して供与している映画会社の株主優待パス、交通会社の無料乗車券、百貨店等の株主割引券、製造会社の製品の無料交付或は割引販売等が、法人税上法人の利益処分として益金とされたことは従来ないのであつて、これらの点からしても株主に対する利益の供与が、総て税法上株主に対する利益配当にして会社の益金を構成するものとなすべきでないことは明らかである。

(四)  以上、いづれの点からするも、本件株主優待金等の支払いは株主に対する利益配当ではなく、法人税上原告会社の益金として計算すべき性質のものではない。

第三、被告の申立、答弁及び主張

一、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める。

二、請求原因第一項記載の事実は全部認める。同第二項記載の事実中、原告会社が株主に対して株主優待金等の名目でその主張する金額を支払つた点、被告が右各支払金をいづれも原告会社の益金として取扱つた点及び仮りに右株主優待金等を損金として取扱つた場合においては計算上原告の所得はその主張する通りの金額となる点はいづれも認めるが、その余は争う。同第三項記載の事実中、原告会社が同項の(一)に記載するような方法、形式でもつて多数の者から金員を受け入れ、かつ支払いをなしたことは認めるが、その余の点は争う。

三、右株主優待金等は税法上株主に対する利益配当と看做されるべきものであり、従つて、原告会社の益金というべきであるから被告のなした本件各決定は適法である。

(一)  即ち、税法上利益配当として取扱うべきか否かは、商法上の形式に拘泥することなく、又支出金の名目如何にかかわりなく実質的、経済的に観察して決めるべきであり、本件株主優待金等のように、出資者たる株主が資本の払戻手続によらないで、会社の純資産を減少する方法によつて利益を得る場合は、税法上すべて利益配当として取扱うべきであり、これを所得の計算上益金とすべきものである。

(二)  原告は、本件株主優待金等は株主が原告会社に対して有する融資申込権の不行使に対する代償であり株式買受代金を元金とする利子相当額であつて、必要経費であると主張するが、右融資申込権なるものの性質その発生の根拠は明らかでなく、右申込権というのも、単に株主に対し融資の申込みをなし得る資格を与えるという程度のものであり、申込みをしなかつた株主に対し代償を支払わねばならぬ程の価値ある財産権といえないものであり、又原告会社が株主から受け入れた金は株式払込金のみであり、これに対し利子発生の余地なく、いづれにしても本件株主優待金等が損金であるとの原告主張は理由がない。

(三)  原告が主張するように、映画会社、交通会社等の株主に対する利益の供与については、利益配当として課税していないが、これは、株主が現に享受した利益を確定することができないために課税対象となし得ないからである。もし株主が受ける利益が確定し得るならば、例えば創業何周年記念等との名目により株主に対し記念品料等を出した場合、或は、ガス会社が株主に対し一定量以上のガスの使用を無料としているような場合においては、総て利益配当として課税対象としている。

第四、証拠<省略>

理由

一、請求原因第一項記載の事実及び同第三項の(一)記載の事実は、いづれも当事者間に争いないところである。

本件における争点は、要するに、右請求原因第三項の(一)記載の方法を以て原告会社が株主に対して支払つた金銭が法人税の上から原告会社の損金として取扱うべきか、益金として取扱うべきかという点につきる。よつてこの点について考える。

二、右に認定したような方法を以て、原告会社が株主に対して支払つた本件株主優待金等は、株主が、株主であるという理由によつて、その持株の額面額に応じて支払われているものである。もつとも、右支払いを受ける株主は、原告会社から請求原因第三項の(一)の(4)記載の融資を受けていない株主に限られているわけではあるけれども、原告会社は金融業を営むものであり、右融資において、融資を受けた株主は融資金に対し利息を支払わねばならない(この点は成立に争いない甲第一号証の一により認められる)のであるから、融資を受ける株主としては、第三者よりも優先的に融資を受けられるというような利益はあるけれども、融資する原告会社からすると、貸付けをなし得る資金を何人に貸付けようと原則として会社に営業自体には関係ないことであり、従つて、融資を受けないということが、原告会社に対し何らかの特別な営業上の利益を与えており原告会社としてこれに対し何等かの対価を与うべきものということはできない。その他に、本件株主優待金等の支払を受けるべき株主が、原告会社の営業に従事するとか、或は原告会社に対しその他特種な利益をもたらしているというような点は何ら主張立証されていない。そうすると、本件株主優待金等は、株主が株主であり、原告会社から融資を受けないという理由のみにより、他には何らの実質的な理由なくして、その持株数に応じて支払を受けているものというべきである。

右のような性質を有する本件株主優待金等の支払いは、原告会社の純資産を減少する方法による株主に対する実質的な利益の供与というべきであり、これは法人税上原告会社の所得を計算する際には、原告会社の利益処分として、益金に計上するのが相当である。

三、原告は、本件株主優待金等の支払は、株主に対する利益配当ではないから益金でないと主張し、これに対し、被告は利益配当であるから益金であると主張するのであるが、本件株主優待金等の支払いが商法上適法な手続による利当配当でないことは明らかであり、これを商法上或は税法上利益配当というべきであるか否かは困難な法律問題があるから結論をしばらく措くとして、右にいうような意味における利益配当に当るか否かということと、法人の所得計算上益金とすべきか否かとは自ら別個の問題であり、前項に説明したような性質を有する本件株主優待金の支払いは、利益配当でないとしても、これを原告会社の利益処分として益金に算入することが不当であるといえないものと解する。

四、原告は、本件株主優待金等は株式買受代金を元本とする利子であるとか、融資申込をなさない代償として支払われるものであるとか、資金獲得のための経費であるとか主張する。そうして、前認定のような原告会社の株式募集方法、或は原告会社が株主に対し何時でもその持株を株式額面額に一定率の割合の金銭を付加した代金で買取ると約定している点、又本件株主優待金等が原告会社の各事業年度における損益にかかわりなく決算期以前において支払われた点等からして、一見原告会社と株主との間の金銭消費貸借に基く支払のようにも見えるけれども、前認定事実の如く、本件株主優待金等の支払の原因は株式会社と株主との関係に基くものであつてみれば、その株主の持株に応じた支払金を利子ということはできないし、融資申込をなさない代償として支払われる金銭又は資金獲得のために支出される金銭を必要経費とは解し難く他にこれを税法上必要経費と解すべき事情の認められない本件ではこれを損金に計上することは適当でないと解する。

五、以上説明した通り、本件株主優待金等の支払いは法人税上原告会社の所得計算に当つては益金として取扱うべきものであるから、被告のなした本件各審査決定には原告主張のような違法な点はなく、適法なものというべきである。よつてこれが取消しを求める原告の本件各請求は、いづれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

(別表省略)

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